2025-01-01から1年間の記事一覧

中国に三角関数はなかった

中世から近世までの数理科学史に興味があると、否応なしに三角法(三角関数)の歴史が一つのジャンルを成していることが眼につきます。解説のたぐいで独立の章や節が割り振られたり、専論の書籍すらあります。ところが、中国には三角関数はついぞ、誕生しま…

『崇禎暦書』は、なぜ革命的だったのか?

今回は、以下のポストの整理です。中国の近現代史を語るとき、日本と比較して、「固有の文化に固執するあまり、西洋文明の導入に及び腰で後れをとった」という言い方があると思います。そのような視点がどのくらい今でも意味をもっているのか、よくわからな…

メモ:「刻白爾」は誰だっけ?

「刻白爾」は、コペルニクスというよりはケプラーかなと思います… https://t.co/HSjMbAPCxt— QmQ (@gejiqmq) 2025年9月21日 今回は、この(我ながら不見識な)ポストについての言い訳です。今朝方、清の阮元(18世紀半ばから19世紀前半)の『疇人傳』をま…

天から地へ ② 経度と緯度の語源

gejikeiji.hatenablog.com 前回は、荒川清秀氏の著作*1から、「北極、南極、赤道」のように、地理学用語の訳語が天球における対応物を媒介として成立した例を紹介しました。つまり、 中国では大地を平らな正方形としていたので、球体説を前提とした用語は備…

 天から地へ:地球に関する訳語の成立事情

もう随分と前になりますが、「地球」の語源を調べたことがありました。 gejikeiji.hatenablog.comこの話の中で、「まず「天球」の語が訳語として成立し、そのアナロジーで「地球」という語が出来た」という点は黄河清氏の論文を引用して済ませてしまったわけ…

『崇禎暦書』:東アジアは、どうやって西洋科学に出会ったか

西洋の数理科学の東アジアへの流入を考えるとき、明の終わりの改暦事業は大きなターニングポイントです。このときに編纂された『崇禎暦書』は、日本や朝鮮にも大きな影響を与えました。自分がこの事業について知ったのは、薮内清の新書版の中国科学史の、あ…

メモ:『太平御覧』引用の「月令」の正体

gejikeiji.hatenablog.com gejikeiji.hatenablog.com かつて、『太平御覧』に「礼月令曰く」などとして引用されている、『礼記』月令に似た文書の正体をあれこれ詮索しました。これらを書いたとき、私はそれを『礼記』月令の異本だと思っていました。しかし…